2019年02月27日(水)

延寿通信 弟188号 2019年3月 [最新情報]

桃の節句

--- 風呂に桃の葉

 3月3日のお雛様といえば、この季節、春が訪れて、野に、山に花が咲き乱れます。その一つに桃があります。桃は、花よりも果実のほうが馴染みあり、まさに花より団子で、桃の実は大事にされています。とはいっても、桃の花もこの季節、梅の花からバトンを受けて風情を愉しませてくれます。
 梅の花は、まだ寒さ厳しい頃から咲き始め、正月の飾りとして床の間を飾ることもあって、厳格というイメージですが、それに比べて桃の花は明るくおおらかな雰囲気です。
 桃は、薬用では桃の実の種、花の蕾、葉が使われます。生薬(しょうやく:主として薬用植物)の世界では、種のほうは桃仁(トウニン)といい、また、花の蕾は白桃花(はくとうか)といいます。桃は中国では古代から栽培されており、日本へは、このころ中国からもたらされています。
 桃の実は邪気を払うとか、鬼女を追い払うとか、神話の世界では強い存在ですが、美味しい桃の実は意外なところでも活躍しています。桃の実、花、葉が古来、薬の世界でも働いているのと、いくらか通じるところが、あるかと思います。桃仁は、漢方で薬用として使われる場合は、血液にかかわる疾患が多いようです。今日では、葉を薬として使うことはほとんどなく、むしろ、あせもに入浴剤として使うことがあります。風呂の湯には、馴染みある葉で、広く使われています。
見て良し、食べて良し,香りを楽しんでも良し、おまけに薬としても働く、なかなかやり手の果物、桃です。
 お雛様を前に、華やかに咲く桃の花を鑑賞しながら、やり手の桃の活躍ぶりに拍手をどうぞ。
 

1.暦にある節句
 桃とは何かといっても、いまさら説明する必要もないので、始めに節句からゆきましょう。
 以前は節供という字を使っていましたが、最近は節句という字を使います。節句というと、暦には5節句というのがあり、桃の節句は、その一つです。
 これは、1年という365日をだらだらと過ごすのではなく、1年の中に節目を設けて、暮らしに変化を持たせようという意図がありました。その節目が節句です。暦を作った古代の人の智恵のおかげです。
 まず、5節句を取り上げて、一つ一つのいわれ、始まりをみてみましょう。
 
 @人日(じんじつ)1月7日
    陰暦正月7日の節句。七草のかゆで祝います。  
 A上巳(じょうみ、じょうし) 3月3日
    この日を、「じょうみ」、「じょうし」といい、陰暦3月始めの巳の日で
    あったのが、後に3月3日になりました。女児を祝う日で、ひな祭り
    をします。宮中では、この日に曲水の宴を行いました。
    これが桃の節句です。
 B端午(たんご )5月5日
    端という字は始めという意味で、5月のはじめの午の日でしたが、午を
    5と読み替えて、5月5日になりました。もともとは邪気を払うための
    祭日でしたが、後に男子の節句になりました。邪気を払うのにショウ
    ブやヨモギを屋根に置きました。ショウブは尚武に通じるので、勇ま
    しさを讃えて、江戸時代に、この日を男児の祭日にしました。
 C七夕(たなばた)7月7日
    棚機と書いていました。天の川の両岸にある牽牛星と織女星とが年に
    一度出会うという、この日に星を祭る行事としておこなわれました。
    奈良時代に行われており、江戸時代に民間のお祭りになりました。
 D重陽(ちょうよう)9月9日
    陽の数である九が重なるという意味で、陰暦9月9日に中国で行われ
    ていました。日本では奈良時代に宮中で観菊の宴がおこなわれました。
    菊の節句ともいいいます。 

2.桃という植物
 桃といえば、まず、頭に浮かんでくるイメージは、香りのいい甘くて美味しい果実、春を告げ咲き乱れる白、ピンクの花です。ここでピンクという言葉を持ってきましたが、ピンクとは『新明解国語辞典』にはpink、 桃色、淡紅色、そして遠慮しながら、ポルノの傾向を持つ意味にも用いると、あります。
 桃はバラ科の植物です。バラ科の植物は非常に多く、植物図鑑ではバラ科の仲間であるマメ科に次いで、多くのページを占めています。薬になる植物もこのバラ科には沢山並んでいます。
 バラ科はこれまた沢山の属があり、さくら属,りんご属、びわ属、なし属、ばら属・・・に分けられております。この中で、桃はさくら属に属しています。桃の仲間にはサクラ、ウメ、アンズ、ナシ、カリンなど美しい花と、美味しそうな果実に恵まれたグループです。
 桃は中国から、弥生時代に日本に来たのですが、原産地は中国です。しかし、桃の学名にはペルシア、今のイランに関する字句がついていますので、それが原産地かと一時言われたのですが、結局、名前にペルシアがついているのがミスであるということになり、中国原産が確立しました。これは一つには桃が東洋のみの果物ではなく、広く世界で栽培されていることを示しております。
 冒頭に、お雛様と桃の花を持ち出したのですが、花として使われる桃には、実がなりません。この桃は花を観賞するための種類でハナモモといいます。
桃には水密桃と言って、香り、味の良い桃が明治に日本にきて、明治以降に広まりました。このあとも、美味しい桃を日本の風土にあわせるために、品種改良が続けられました。
 なお、薬に使う桃仁(トウニン)の桃は、すべて中国産です。この桃仁には、青酸配糖体アミグダリンが含まれており、種を大量に食べると危険です。かつて中国で、桃の種を大量に食べて、死亡したという事故がありました。花を鑑賞したり、甘い、香りのいい実を味わっているだけでは、問題はありません。

3.入浴剤 桃の葉 
入浴剤として、最近、桃の葉が使われますが、家庭医学書『家庭の民間薬・漢方薬』では、アセモにいいので新鮮な葉とってきて水洗いし、薬500gを袋に入れて風呂に入れると、説明しています。注意事項としては、先に述べましたが、青酸化合物が成分に含まれているから、十分、換気するようにと同署は書いています。
 桃の葉は民間では、かつてはよく使われており、例えば、吐いて腹痛ある時は桃の葉の絞り汁を白湯で飲む、あるいは、下痢にはまず温湯を浴びてから、桃の葉で身体をこする、腹痛には桃の葉を煎じて、その湯に浸かる、などが行われていました。
 中国の医学書の古典『神農本草経』(480年ごろ)にも、桃は取り上げられておりますので、中国の古代から大事に使われてきた薬であるということも理解できます。桃は日本には、この時代に来たものであろうといわれています。薬としては、漢方の処方用薬で、婦人薬、瀉下剤としてたくさんの処方にに配合されています。トウニンを単味で使うことは、漢方ではほとんどありません。     
 類似の植物ではバラ科の杏(あんず)の種がキョウニンといって使われています。キョウニンも『神農本草経』には収載されており、種の成分は近いのですが、外観は大きさが異なります。両者は兄弟のようですが、漢方医療では用途は違い、このキョウニンは咳止めに使います。また、杏の葉を入浴剤に使うことは、あまり行われていません。
 
 桃の季節が済むと、いよいよ春は本格的になり、サクラの季節を迎えます。

<参考文献>
水野瑞夫、太田順康:くらしの薬草と漢方薬、新日本法規(2014年)
日本大衆薬工業協会:改訂版汎用生薬便覧(2004年)
水野瑞夫、米田該典:明解家庭の民間薬・漢方薬、新日本法規(1983年)

Posted by 管理者 at 08時08分

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