2018年07月23日(月)

延寿通信 第180号 2018年8月 [延寿通信]

いかにも薬草らしい香り

--センキュウ

 生薬入浴剤「延寿湯温泉」の成分欄を見ていると「センキュウ」という名前が出てきます。これは薬用植物の一種ですが、目立つ植物でもなく、近くの山野に生えてはいないこともあって、やや馴染み薄い薬草かと思われます。
 もともとセンキュウは中国原産で、古来、中国では薬草として多方面で利用されてきました。薬用植物として古い歴史があり、原産国の中国では、5世紀の『神農本草経』という薬用植物の古典に収載されています。センキュウは日本には自生してはいない植物で、栽培によって特定の地域にて育っております。
センキュウが植物として、わが国に来たのは江戸時代で、栽培はその時点から始まります。しかし、薬としてのセンキュウは奈良時代から日本に来ており、古い歴史を誇っております。
 センキュウには、いかにも薬草らしい独特の香りがありますが、この香りだけを取り上げてセンキュウを話題にすることは役不足で、センキュウは香り以上に薬効が大事なのです。古くから、センキュウは重要な薬草として育てられてきました。
 薬用植物の本では、センキュウの作用には,中枢神経抑制、局所刺激作用、体温降下作用、鎮痙作用などがあげられ、効能として補血、強壮、鎮静、鎮痛、貧血、生理不順、冷え症などが並んでいますが、今日の医療では婦人用、冷え症用、皮膚疾患用などの主要薬として用いられております。

1.名前の由来と産地 
 センキュウという植物は日本では北海道、東北地方で栽培されています。中国では四川省が産地です。もともと、センキュウは古くから薬用植物として栽培されてきており、自生の場所は限られています。
 センキュウはセリ科の多年草で薬には根茎を使います。セリ科には薬になる植物が多く、また、香りに優れた植物が集まっており、高麗ニンジンの属するウコギ科はすぐ近くにあって、分類上部のセリ目にはセリ科とウコギ科が並んでいます。参考までに、野菜のニンジンは、このセリ科にあります。
 古い歴史を持つ薬だけに、センキュウの名前の由来となると、これは複雑で、ややこしい話が出て来ます。現在はセンキュウの名称には「川芎」という字を使います。この「芎」の字が難しいのです。本来は芎ではなく「穹」の字、あるいは別のキュウという字を使います。この「穹」の字は天を意味するといい、それはセンキュウが頭の疾患に使うからという説明があります。しかし、この「穹」の天という意味は頂上・頭ではなく、天が弓形・アーチ状になっているからという解釈があり、それが、植物センキュウの形に似ているからであるという説もあり、この方が理解しやすいかと思います。
 別に、産地名に関連して、胡芎(コキュウ)、あるいはセンキュウの根節の形状が馬のくつわに似ているというので、くつわに関連した名前をつけたものがあります。結局は産地名にちなんで、中国四川省の川と芎をつないで川芎(センキュウ)という名前が今日に伝わりました。
 日本では、センキュウ栽培の始まりは江戸時代で、この時に中国から栽培株がもたらされました。センキュウは寒気に強い植物で、現在、栽培は北海道が主で、そのほか岩手、群馬、富山、新潟などからも産出しています。栽培では場所を選び、夏涼しく、霧が発生し、あまり乾燥しすぎないところで、しかも、土地は肥えた排水のよいところが適しているといいます。

2.薬としてのセンキュウ 
 わが国のセンキュウの年間消費量(2016年)は、全生薬の年間使用量でみると、上位16位にあり558トンで漢方の処方では、よく使われています。そのうちの85%(469トン)が国産品であるというのは薬草では珍しく、海外からの輸入が8割近くを占める生薬の中にあって、センキュウは国内栽培品のトップクラスに位置しています。
 センキュウは成長すると高さは約60cmとなり、葉は羽のように刻まれており、葉柄の脚部が茎を抱いています。秋に白色の小花をつけます。センキュウは別名を女草(おんなぐさ)といいますが、見た目はそんなに優しそうな草でもないので、これはセンキュウが女性に使われる場合が少なくないからか、と思います。
 センキュウを薬として使う場合には、秋に掘り起こした根っこを湯に通して乾燥させてから使います。湯通ししないでそのまま干したものを使う場合もありますが、これは虫に食われやすいので、通常は生干しは使いません。
 センキュウは別名のように婦人薬で通用する場合もありますが、効能は広く、ご婦人専用ではありません。冷え薬、消炎剤、補血、強壮などに使われます。また、漢方では、センキュウを配合している処方薬剤は多く、全生薬の中では中程度にあります。例えば、わが国の一般的な生薬製剤(医療用)148処方への配合では、最高はカンゾウの98処方ですが、センキュウは24処方に配合されています。
 センキュウは煎じ薬のほかに、粉末にして内用剤、散剤、丸剤として使われる場合もあります。
センキュウが薬として使われるのは、成分中の精油成分に含まれるアルカロイドなどによります。精油成分というのは、センキュウの香りの元となる油分をいいます。 一般用の生薬製剤を見てみると、センキュウはいろいろいな製剤に配合されており、それらの製剤の効能は、例を挙げると、次のような疾患・症状が並んでいます。

@婦人血の道、産前産後、月経不順、下肢腰足の冷え込み、頭重
A中年以降、または高血圧傾向にあるものの次の症状:頭痛、頭重、肩こり、
 めまい、動悸  
B動脈硬化、血圧降下、神経痛
C痔出血
D高血圧にともなう頭痛・動悸・手足のしびれ・肩の凝り・のぼせ・めまい・
         いらいら
E湿疹、じんましん、水虫による炎症・化膿
 これらは一例であり、また、いずれもセンキュウ以外に、たくさんの生薬が配合されていますので、この効能はセンキュウだけのものではありません。

3.センキュウの風呂
 中国では、薬湯の風呂の歴史は古く、薬湯には、いろんな薬草が使われ、しかも沢山の生薬を組み合わせています。中国の生薬入浴剤の古い処方集をみると、この本の「薬浴常用方剤」の章には全部で約200処方掲載されていますが、その中でセンキュウの含まれているのは14処方です。この場合の薬浴は広い意味で、局部の洗浄液も含まれ、すべてが風呂用ではありません。また、薬草をそのまま風呂に入れるものばかりではなく、煎じた液を使う場合もあります。
 このデータでみると、センキュウの14処方というのは生薬の部類では多い方です。薬らしい香りと消炎、鎮痛が重んじられているからでしょう。もちろん、センキュウは薬湯には単独で使われるのではなく、他に、たくさんの薬用植物が配合されています。 
 参考までに、生薬入浴剤「延寿湯温泉」に配合されている他の生薬も調べました。樟脳(ショウノウ)は5処方、竜脳(リュウノウ)は13処方に用いられています。これらは清涼感と、スッキリした香りが大事にされており、中国の入浴剤でも引っ張りだこです。わが国で家庭の風呂で、よく使われる菖蒲、桃の葉、みかんの皮あるいはヨモギのように、これらを単独で浴槽に入れて使うことは、この中国の処方集ではあまり出てきません。
 先号のこの欄ではチョウジ風呂という香辛料のチョウジを単独で使った風呂を紹介しました。しかし、センキュウ風呂というのは、わが国および中国ではあまり耳にしません。センキュウを単独で浴槽に入れることは、歴史的にも、一般には行われていないのでしょう。センキュウには独特の薬草の香りがあって、風呂には都合いいのですが、根茎を使いますので、身がしまっていて、プカプカ浮かぶと言うものではなさそうです。

<参考文献>
・JAPIC 漢方医薬品集:(2014年)
・牧野和漢薬草大図鑑、竃k隆館(2002年)
・中華薬浴、長虹出版公司、中国・北京(2001年)
・日本医薬品集フォーラム監修:日本医薬品集 一般薬2018-19、鰍カほう

Posted by 管理者 at 13時52分

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