2018年02月23日(金)

延寿通信第175号 2018年3月 [延寿通信]

ヨモギの話---春が来ました

よもぎ 
 春の声とともに、タンポポ、ナズナ、スミレ・・野の草花は新芽を出して、明るい花を咲かせ、春に彩りを添えます。
 タンポポとかナズナといえば、道端に生えていますが、都会では、道路はほとんどが舗装されていますので、道端の草花は窮屈そうにしています。都会から離れて一歩、野山に出かけると、これらが春を感じさせてくれます。田んぼのあぜ道にタンポポや、スミレ、時にはゲンノショウコが群がって咲いている光景に出会います。その中でヨモギの群れは花が小さくて目立たないのですが、葉が元気一杯に茂っています。ヨモギは暖かくなると盛んに茂り、ぐんぐん株を大きくします。ヨモギという名前は、このように枝葉が4方に伸びて群落を作ることから、四方(よも)の草という、あるいはよく燃えるということから来たと言う説があります。
 ヨモギは民間薬として、あるいは、ヨモギ餅の材料として欠かせないのですが、もう一つの大事な役目は灸のモグサの原料になっていることです。ヨモギはもともと薬草として中国からやってきたという説がありますが、灸には長い歴史がありますので、薬草よりも灸の材料として日本には先に来たのではないか、という説もあります。
 大阪の薬の神様、道修町の神農祭に使われる虎にもヨモギは関係してきます。古代、中国では毒気を払うのにヨモギを虎の形にして門戸に懸けて、病を除けていました。この虎が、大阪道修町の少彦名神社の神虎であり、張子の虎として笹に付けられようになったというのです。この張子の虎は江戸時代の終わりごろ、コレラ大流行の時に大阪で生まれました。
 薬湯にはヨモギ湯があります。いい香りがあって、身体を暖めてくれます。
 また、食の世界では、何といってもヨモギ餅です。この餅は、このごろは年中あって、食品店では、どこにでも並んでいます。ヨモギの緑の皮に包まれたあんこの餅で、色、風味が大事にされています。
 道端にも、山野にも、どこにでも見られるヨモギですが、ヨモギは身の回りのあちこちで利用されて、私たちの健康な暮らしを豊かにしてくれています。今回は、その中でも、医療にかかわりのあるヨモギを取り上げてみましょう。

1.ヨモギの本体
 植物のあらましの姿を察知するためには、その植物が何科に属するか、ということを知るのが第一です。ヨモギはキク科です。キク科には、いろいろの薬草が並んでいます。キク科は香りゆたかであり、真直ぐな茎と、旺盛な株育ちの姿が特徴ですが、葉が菊のように手のひら状になっているのは限られており、すべてのキク科植物に共通とはいえません。花の形状もキク科は独特です。しかし、ヨモギの花は庭の菊とは大違いで、小粒で、しかも地味ですので鑑賞用にはなりません。
 食用のヨモギを採取するには3月3日の春先がよいとか、あるいは5月5日も、採取の好適時期になっております。薬用には新芽よりも、できるだけ古い葉を採る方がいいようです。採取したら直ちに日に曝し乾燥させます。沢山採るには、5月はじめに、葉のついた茎を刈り取って干して、乾燥後に葉を集めるのが楽です。モグサ用のヨモギは5月の若い芽がいいといわれています。
 中国の古典では「5月5日朝、鶏のなく前に採り、しかも人の形に似たものを集めて貯える、これを灸で使うと、はなはだ効き目がいい。採取した後、門の戸に掛けて置くと毒気を払い、これを灸に使うと効果大である」と説明しています。
 ヨモギという薬草は、古代の中国で大事にされてきましたので、いろいろの言い伝えが残っております。 ヨモギは中国では艾(がい)という字を使います。この艾という字にはいろいろの意味があって、老人、50歳、見目麗しい、尽きる、治まる・・この最後の意味が「病を治める」に通じており、ヨモギの本来の意味であるといいます。
 ヨモギは、わが国では医薬品の原料というよりも、日常の家庭薬であるというのでお馴染みです。これを民間医療といって、家庭では、人々が野山へ出て採取してきた植物をケガ、湿疹などの軽い疾患の治療に使う場合です。ゲンノショウコやイタドリ、オオバコなども民間医療の仲間で、道端あるいは野山の草をとってきて、これを伝え聞いている方法で使います。民間医療では薬草を、それぞれ単独で使うのが特徴で、医師や薬剤師など専門家の登場する医学の世界とは一線を引いております。漢方医療では薬草を単品で使うことは少なく、通常は、複数の薬草を配合して煎じ薬として、あるいは塗り薬として使います。
 医薬品の場合、わが国には日本薬局方という公定の規格書があり、この規格書に収載されると、一人前の医薬品の扱いを受けます。ただし、最新の新薬というのは別です。この公定の規格書、日本薬局方が生まれたのは1880年(明治13年)で、それ以降、改定が続けられて、今は第17版が使われています。ヨモギは、現在の第17版には出ていますが、初めて収載されたのは、つい最近、2012年のことです。ヨモギは民間医療の家庭薬の時代は長いのですが、この時点で、ようやく医療の世界で医薬品の扱いを受けるようになったのです。ただし、従来の民間薬としての、あるいは食品としてのヨモギの扱いには変わりありません。
 

2.ヨモギ風呂
 ヨモギは、中国の古典の医療の処方をみると、2,3の処方例はありますが、あちこちの医療分野で使われていたという薬草ではないのです。しかし、薬湯ではヨモギは古くから使われており、この分野では名前が通っています。これはわが国の場合も同様です。
 風呂にヨモギを浮かべたヨモギ湯(風呂)というのは、ショウブと並んで5月5日、こどもの日では主役を務め、ヨモギを欠かすことは出来ません。ヨモギは菊科に属していますのでキク科独特の香りが漂います。このヨモギのいい香りは精油に含まれるシネオール、樟脳や龍脳などによります。この樟脳や龍脳の上品な香りは風呂には最適ですので高級な入浴剤には使われています。
 ヨモギを風呂で使うときには葉と根を用います。
 ヨモギ風呂の始まりははっきりしませんが、古来、わが国では柚子湯、菖蒲湯、桃の葉湯、ヨモギ湯などが薬湯として伝えられていますので、これらは暮らしとともにあって、いつのまにか、薬湯の定番になって、風呂の歴史とともに今日に至ったのです。
 温泉から離れて、わざわざ湯を沸かして入浴することが普及するのは江戸時代以降で、しかも、それまでは蒸気浴でしたので浴槽は使っていません。浴槽に湯を張る銭湯が都会で出始めるのは江戸時代になってからです。
 生薬の「延寿湯温泉」という入浴剤はすでに60年以上の歴史がありますが、入浴剤がわが国の市場に商品として出始めたのは、明治の中ごろです。始めは生薬が中心でしたが、今日のような化学物質による芳香のある入浴剤が出たのは1928年(昭和3年)です。これは都会の話ですが、入浴剤が市場に出始めるのは、暮らしで入浴を楽しむようになってきたからでもあります。しかし、農家では自宅の風呂でヨモギを入れるのは、明治以前、もっともっと歴史はさかのぼります。
 ヨモギ湯に入るには、乾燥させた葉を布袋に入れて、そのまま湯に浮かべます。もう一つの方法は、採取したままの葉を10枚ぐらい刻んで煮詰め、5~10分ぐらいして取り出し、この汁を湯に入れる方法があります。なんと言っても穏やかなヨモギですから、あまり方法にこだわることなく、生のまま、あるいは乾燥させたもの湯に浮かべればいいのです。
 ヨモギ湯につかると、血流が良くなり、腰痛や肩こり、生理痛を和らげ、新陳代謝を高めます。そのほか、殺菌作用や止血作用がありますので、アトピーが良くなったという例があり、切り傷や擦り傷にもよいといいます。
 ヨモギ湯に入る場合、人によっては肌に刺激になる場合がありますので、事前に確認しておくほうがいいようです。

3.ヨモギの効用
 ヨモギは中国では艾(ガイ)といいますが、『本草綱目』(1600年ごろ)という薬用植物の中国の古典によると、ヨモギはあらゆる病に灸で使う、煎じて飲めば、吐血、下痢、婦人の病にも良いと書いています。この灸ですが、ここで使われるモグサは、ヨモギから作られます。モグサはヨモギの葉の毛を掻きとって集め、これを綿のように形作ったものです。モグサは伊吹山のヨモギが伝統あり、有名です。もともと、この伊吹山というには薬草の宝庫でもあります。 すり傷や切り傷の時には、生の葉の汁を塗ることがあります。ヨモギを民間薬として、煎じてのむ場合には、今日では、健胃、貧血、下痢、腰痛、腹痛、ぜんそくなどに使われているようです。
 風呂のヨモギ湯は、ヨモギの葉を乾燥したものを使い、ヨモギ湯の材料は商品として各社から発売されています。その商品説明を読むと、いろいろのヨモギ風呂の効能が出てきます。2,3ご紹介しましょう。
・身体を暖める。
・ホルモンバランスを整える。
・血液の流れを改善する。
・精神安定、ストレス解消、疲労回復、胃腸の強化、アトピーの改善、ニキビ
 やアセモの改善、貧血の改善。
 ヨモギというのは女性に優しい植物であり、ダイエット、あるいは美肌効果もあると、商品ではお奨めしているようです。この段階では、ヨモギは民間医療の粋を出ていません。

<参考文献>
・難波恒雄:原色和漢薬図鑑、保育社(1980年)
・水野瑞夫、大田順康:くらしの薬草と漢方薬、新日本法規(2014年)
・牧野和漢薬草大図鑑、竃k隆館(2002年)
・木村康一ほか校訂:新注 国訳本草綱目、春陽堂書店(1974年)

Posted by 管理者 at 11時24分

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